02.美しい呪い

TLTSA02

朝、起きてカーテンを開くと、まだ外は暗かったけれど、「今日、お花が届くといいなあ」と私は心の中でつぶやいた。昨日、園芸店で大量の花苗を注文し、配達を頼んできたのだ。
見上げる雲の様子から察するに、お昼前には結構気温があがりそう。植えつけにはちょうどいい十一月の土曜日。

いま、ベランダに咲いているのは、黄色のデイジー、赤いゼラニウム、オレンジ色のマリーゴールドとコスモス、ピンクと紫のシクラメン。贅沢な悩みだが、なまじベランダが広いため、これだけではどうしても寒々しい印象になってしまう。もちろん、あと数週もすれば、花芽をつけた枝に秋の彩りが灯るだろう。それでもその間の寂しさえ耐えられないのは、私の性分だろうか。

今年はプリムラを例年の三倍の量、植えようと思っている。それからスミレ、ピンクのコスモス、サクラソウ、もう一株、クレマチスも足すつもりだ。この冬は机に向かう仕事が増えそうだから、窓から見える景観は艶やかであればあるほどいい。そして、枯れたハーブは処分する。水を遣ったときに立ち上る香りに魅力を感じないわけではないけれど、花を咲かせない草を真剣に育てる気にはなれないということが最近自分でもわかってきた。やはり私は色――とにかく色が好きなのだ。しかも、たくさんの色が。

母は私に千彩という名前をつけるとき、娘がここまで色に執着し、拘泥される人間になると一瞬でも考えただろうか。名前というものは恐ろしい。母が無邪気につけたとしても、少なくとも私は、その選び取った名前の通りに育ってしまったのだから。
まるで美しい呪いのようである。