52.わが道

TLTSA52

新藤兼人監督『わが道』をDVDで観る。青森県十和田市から名古屋へ出稼ぎへ出た初老の男が東京で行き倒れ、病院、役所、警察の怠慢により、身元不明人として処理され、医大の解剖実験材料にされていた――その事実を知った妻が裁判を起こすという、現実にあった訴訟を映画化(裁判闘争記録『ある告発−出稼ぎ裁判の記録』が原作にあたる)。夫の役を殿山泰司、妻の役を音羽信子が演じていた。脇には錚々たる演劇人が大勢出演。内容は寒村の貧困、出稼ぎの問題を扱った社会派ながら独立系プロダクションの作品とは思えない豪華な顔ぶれに、まるでオールスター映画を観ているかのような奇妙な派手さが。それはともあれ、映画に映し出される寒村の貧しさは、住宅地育ちの私にはトラウマになりそうなほどの厳しさ。いまの農村の状況がどうなっているのかさえわからずにいる私だから、ただひたすら、農村怖い、寒村怖い、胸が痛むのを通り越して恐怖に顔をひきつらせること数回。観て良かったなあと思うし、よくできている映画だと思うけど、開けてはいけない哀しみの箱を開けてしまったような後味。ラストシーン、夫と営んでいた食堂を振り返る音羽信子のショットが深く印象に残った。