16.夜の愉しみ

TLTSA16

師走といえども、忙しいという言葉が飛び交い始めたのは十一月のことだ。この季節になると、たった数日の正月休みのために、なぜこんなにみんなせわしなく働かねばならないのか、と腹立たしく思うけれども、これももはや日本の伝統なのかもしれない。今日も前の予定が押して、香水の発表会に出席できなかった。新しい担当者と挨拶をするいいチャンスだったのに。

最近の数少ない愉しみは、眠る前に映画を観ること、本を読むこと。そうして頭の緊張を緩めてから眠りにつく。特にいまは、瀬戸内晴美の『夏の終り』に夢中だ。この小説の主要な登場たちは、巻末におかれた竹西寛子氏の解説からひくと、「生活者としての内的秩序が、いわゆる良識ある生活とは重なり合わぬ」者たち、と説明されているが、瀬戸内晴美の小説が好きかどうかは別にして、私自身も主人公たちと同じく重なり合わぬ者であるがゆえ、感情移入をあまりしない私にしてはめずらしく心引き寄せられ読んでいる。あと数十ページで読了するが、瀬戸内晴美の他の本も読んでみたい。期待はしていないが、興味がある。