41.二年目の雲

TLTSA41

今年最後の《memorandom》ミーティング。来年に向けて新しい企画の準備、大晦日/元旦の更新の確認など。仕事の傍らの活動なので手が回らないことも多いけど、晴天の雲の如く、ふわふわ楽しく漂っています、ウェブマガジン。2年目突入しました。

 

 

40.蚕の吐く糸

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『いわさきちひろ 知られざる愛の生涯』読了。軽めの本と思っていたら、想像以上に深い内容だった。
大まかに説明すると、本書は大正7年生まれのいわさきちひろを、戦中戦後を生きたひとりの女性画家として追うことで、当時の女性の社会的自立状況をも描いている。確かに、あどけない子供の絵に気を取られていると見落としてしまうが、いわさきちひろは、家庭の主婦におさまる女性が大半の中で、手に職を持ち、常に第一線で活躍した職業婦人の先駆者でもあり成功者でもあった。そこに至るまでの苦闘の足跡がこの本には綴られている。

彼女の生い立ちの中で、私が特に驚いたのは、彼女の両親がともに軍部関係者だったこと。戦時、それ自体はめずらしいことではないけれど、いわさきちひろが共産党員であり、また、彼女の夫(松本善明)が共産党衆議院議員だったことを知っていただけに、それは意外な事実と受け取れた。しかし、思想上、親とは正反対なところへ向かっていくことは、彼女の芯の強い性質の表れともいえるし、他にも彼女の穏やかながらも意志的な性格は、本書の中のエピソードの随所に見られた。
例えば、最初の離婚後、両親の暮らす田舎へ戻ったものの、東京育ちの彼女は、詩よりも米を作れ、という土地の雰囲気になじめず、家出をしてひとり東京に戻るところ。講演会に感激した彼女が親に内緒で共産党に入党するところ。のちの再婚相手(松本氏)がいわさきちひろよりもずっと年下だったというのも、時代を考えれば、十分結婚への障害となる条件だ。そこを突破していくあたり、つまり、いわさきちひろは信念を持って生きた人なのだと思う。
お百姓さんが被る帽子を油彩絵具で黒く塗り、キャプリーヌとして被って歩いていた、いわさきちひろ。そんな茶目っ気ある洒落たセンスを持ちながら、その裏には、労働者がきれいな服を着ていたっていいはずだという確固とした彼女の考えがあった。

そんな彼女が紡ぎだす色はいつも優しく美しい。私が小学生の頃、図書館では子供たちが先を争うようにしていわさきちひろの絵本を借りていた。幼い私も見惚れるように彼女の水彩画を眺めていた。そのことを振り返ると、文中にあった一文、人間は複雑な感情を持っているけれども、彼女はそこから蚕が糸を吐くようにしてきれいなものだけを描いていた、という表現は、彼女の作品世界を見事に言い表している。そう、まさに蚕が糸を吐くように――。

 

 

39.先生は知っている

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調子にのって昨日一日机に向かい、ガリガリ仕事を片付けたら、見事に朝から体調不良に。久しぶりに微熱と吐き気。顔を出すつもりだった小西(康陽)さんと曽我部恵一さんのライヴも欠席することに。「少し(快方への)芽が出てもすぐに摘んで使っちゃうひとだからなあ」と言った先生の言葉を思い出しつつ、終日、ベッドで過ごす。ライヴ、観たかったナ・・・。

 

 

38.世間

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日曜だというのに、一日事務作業に没頭。ファイル整理、税理士事務所に送る書類の用意などなど。こんな時期まで面倒な仕事を、と同情されるかもしれないけれど、数字が嫌いではないので、私にとってこれはそれほど大変な仕事ではないのです。
経理書類や法務書類を扱う仕事の良いところは、心を使わずに済むところ。人間関係もそれほど濃くないし、なんといってもひとりでできることが多いというのがいい。他人の感情に振り回されなくて済むしね。その一方で、音楽の仕事やウェブマガジンの制作のように他人との協業は協業で楽しいから、どちらも半分ずつこなしているのが、心のバランスがとれて私は好き。
そのやり方でもう20年以上で働いているから、逆にそれが一番やりやすい人間になってしまっただけかもしれないけれど。

夕方、郵便を出すため、外に出たら、全然車が走っていなかった。世の中はもうお休みに入ったんですね。暦に無関係に働いていると、こういうときに世間とのズレをヒシヒシと感じてしまう。私は農暦(旧暦)で生きている人間だから、今年はまだ一か月あるけどね。いや、でも道がガラガラでホントびっくりした。

 

 

37.大人の愉しみ

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今日は、一日かけて、ショップに出すサプライズボックスを作っていた。ハサミで切ったりノリで貼ったり、コピーにかけたり、そういう作業が私は大好き。一日机に向かっていても飽きることがない(原稿書くのは飽きるけど)。結局、65個ぐらい作ったかな。でも、これ以上は作りません。これ以上作ると自分がしんどくなっちゃうから。楽しいな、ぐらいでやめておくのが物作りを続けるコツ。だから、サプライズボックスは3種合計65個の完全限定盤ということですね(中にコンピレーションCDが入っている)。というか、Tシャツやマグカップみたいに版下を業者に入れたら無限に作れる、みたいなものにはそんなに興味がないのです。ひとつずつ違う、とか、自分の手を動かすのが好き。そして、開けた瞬間にワーッと盛り上がって、その後、わりとどうでもよくなるものが好き。ポテンシャルを作るのが好きと言えるかもしれません。

夜は、公開当時から駄作駄作と言われた挙句、3週で打ち切られた実写版『ガッチャマン』をDVDで観た(あまりにひどい言われようなので逆にずっと観たかった)。で、やっぱり笑っちゃうほどひどかった。真面目に演技している俳優さんが可哀相になったもん。ドラマも松坂桃李と綾野剛と突然登場したナオミという女(誰?)の三角関係物になっていて、子供の頃リアルタイムでアニメを観ていた私は、これ、ガッチャマンじゃないじゃん・・・と。でも、岸谷五郎の南部博士のコスプレも面白かったし、少し前に観た『共喰い』でウォーッと大声をあげながら射精(?)しているシーンがあまりに強烈だった光石研がカークランド博士という役名で出て来たり(カークランドって顔じゃないよ!)、まるまる笑えたからいいか、という気に。ひどいけど面白い、面白いけど二度は観なくていい映画『ガッチャマン』。要するに、今日、私はボックスづくりと『ガッチャマン』を観ることしかやっていないということです。

 

 

36.どんなに好きでも

TLTSA36

午後、PR誌連載の打ち合わせ。
いろいろと説明を受けたし、こちらも提案をしたけれど、最終的に私に決まるのかどうか、よくわからなかった。
頭がぼんやりしていたからそう感じたのだろうか。
クライアントありきの話のため、誰も結論を言わないせいもある。
でも、もし、私に機会が与えられるならば、書いてみたいとは思っている。
香港とは違う街の人々の話を。

4月から連載『香港スタイルミルクティー』は再開させる。
だけど、旅。街。行き交う人々。不必要とされる場所にいる居心地の良さ――正直、香港以外の街のことも書いてみたいと思うのだ。
もちろんいまも香港は大好きな街。その気持ちは変わらない。
だけど――パリにいたときもそう思ったけれど――どんなに好きでも、何かを/何処かを、ファナティックに愛するところまで私はいかない。

パリのいいところ、コペンハーゲンのいいところ、ウランバートルのいいところ、ムンバイのいいところ、
上海のいいところ、プラハのいいところ、サンクトペテルブルグのいいところ、ザルツブルグのいいところ・・・。
行けば行っただけ、どの街にも魅力があった。
日本を旅しているときにもそう思う。
行けば行っただけ、どの街にも魅力がある。
そして、その魅力だって、絶対的なものというよりは、旅を重ねる中で見つけた「差異」そのものであることのほうが多い。

この頃、私は、香港の話を避けているかもしれない。
食べ物と買い物の話はもうたくさん、と、心のどこかで思っている。

 

 

35.少年

TLTSA35

今日は小西(康陽)さんのラジオ番組の公開生放送がある――ということで、クリスマス・イヴだというのに、兼ねてから、一度ラジオの収録風景を見学してみたいと強請(ねだ)っていた甥と、夜、私はTBSラジオまで出かけたのだった。

ラジオ局へ向かうタクシーの車中、「サンタさんに手紙書いたの」と尋ねると、甥は「書いていない」という。
「どうして書かないの、プレゼントいらないいの?」
「だって書いてもプレゼントが届かない年もあるし、書かなくてもプレゼントが届く年もあるしさ」
私は妹の顔を思い浮かべ、苦笑した。

「へー、手紙書かないときにどんなものが届いたりするの」
「え?ああ、枝豆育成キットが届いたことがあるよ」
「え!枝豆育成キット?!」
「しかも、育てる鉢が、育て終わったらビール飲むコップになってるの。ははは」
私は妹の顔を再び思い浮かべた。こういうところからして妹と私は性格が違うのだ。

「・・・そんなの選びそうなひと誰だかわかるじゃん!」
すると甥がひとこと。
「ビール好きのサンタさんが選んだんじゃないの?」

幼かった甥も春には中学生。大人になったなあ。

 

 

34.音楽との出会い

TLTSA34

私のウェブショップでは、古本と作品、旅先で買ったものを販売しているのだけれど、もう少し幅を広げてセコンドハンドもの、私が長らく愛用してきたものも売ってみようかと思っている。たとえば部屋の隅に大量に積み重ねられたCDとか(もちろん、そのCDへの思いも書き添えて)。
いままでは、正直にいうと、中古CD屋で処分していた。だけど、もしも、私のショップで販売することで、それが私の読者にとって音楽との出会いのきっかけになったら、これ以上嬉しいことはないし、それも夢ではないと思うのだ。実際、私自身もそんな風にひとからもらったり、教わったりして音楽の世界を広げてきたのだから。

なんでもこうして身の回りのものを手放してしまうのがいいことなのか、と思うこともある。また、そういうことは音楽通のひとがやるべきことで、音楽通でもない私がCDを売って買ってくれるひとがいるかしら、とも。でも、いま私がやりたいことは、読んでいない本ばかりの部屋にすること、聴いていないCDばかりの部屋にすること、着ていない服ばかりの部屋にすること。ならば、バカボンのパパなら、これでいいのだ!と背中を教えてくれるに違いないし、私自身そこに進みたいという気持ちもはっきりしている。
この頃、なんでも思いついたことはやってみようと思っている。やってダメならやめればいい、大人になるにつれて段々そう思えるようになってきた。

 

 

33.愛の教え

TLTSA33

夏の間観た映画の中で一番気に入ったのは、橋口亮一監督の『ハッシュ!』だった。ゲイのカップルとひとりの女性の物語。あまりに良すぎて4回観た。
ここ何年も、男女の《結婚》をゴールとした恋愛映画には興味もわかない。それは、私の年齢が関係していることかもしれないし、現実に子供を持っていないので家庭というものにリアリティを感じないからかもしれないし、また、人間は人間としてひとを愛することができるのだと私が心のどこかで信じているからかもしれない。それは、つまり、私には男女の恋愛においても性愛のプライオリティを超えるものがたくさんある、ということなのだけれども。
閑話休題。
ノートをめくっていたら、台詞が書きつけられたメモが出てきて、それは『ハッシュ!』に登場するカップルの片割れの義姉の台詞だった。

「まわりはどうでも自分のほんまの好きなひとと一緒にならんとつまらんよ」

ほんとにつまらんよね。
義姉の役は秋野暢子だった。

 

 

32.視野検査

TLTSA32

眼科の検診、いい結果が出なかった。病気が進行していた。
不眠治療の薬も飲んでいるので、テスト時の反応が鈍くなっているのかも、と先生に話すと、
その可能性も考えられるから、来月もう一度検査してみましょう、と言われた。
でも、なんとなく、来月の検診でも結果は同じような気がする。
そして、もしも結果が同じなら、目薬がもう一種類増える。

帰りに文房具店に寄って、オリヴェッティのノートカバーを買った。
少しキズがついていたので5%まけてもらった。

この頃、また痩せてしまって、ブラジャーが緩い。
買い替えるとなると、手痛い出費。この間買ったばかりなのに。

ああ、どこかへ行きたい。
また沖縄でも行こうかな。
海しか見えないようなところへ行きたい。