36.どんなに好きでも

TLTSA36

午後、PR誌連載の打ち合わせ。
いろいろと説明を受けたし、こちらも提案をしたけれど、最終的に私に決まるのかどうか、よくわからなかった。
頭がぼんやりしていたからそう感じたのだろうか。
クライアントありきの話のため、誰も結論を言わないせいもある。
でも、もし、私に機会が与えられるならば、書いてみたいとは思っている。
香港とは違う街の人々の話を。

4月から連載『香港スタイルミルクティー』は再開させる。
だけど、旅。街。行き交う人々。不必要とされる場所にいる居心地の良さ――正直、香港以外の街のことも書いてみたいと思うのだ。
もちろんいまも香港は大好きな街。その気持ちは変わらない。
だけど――パリにいたときもそう思ったけれど――どんなに好きでも、何かを/何処かを、ファナティックに愛するところまで私はいかない。

パリのいいところ、コペンハーゲンのいいところ、ウランバートルのいいところ、ムンバイのいいところ、
上海のいいところ、プラハのいいところ、サンクトペテルブルグのいいところ、ザルツブルグのいいところ・・・。
行けば行っただけ、どの街にも魅力があった。
日本を旅しているときにもそう思う。
行けば行っただけ、どの街にも魅力がある。
そして、その魅力だって、絶対的なものというよりは、旅を重ねる中で見つけた「差異」そのものであることのほうが多い。

この頃、私は、香港の話を避けているかもしれない。
食べ物と買い物の話はもうたくさん、と、心のどこかで思っている。

 

 

35.少年

TLTSA35

今日は小西(康陽)さんのラジオ番組の公開生放送がある――ということで、クリスマス・イヴだというのに、兼ねてから、一度ラジオの収録風景を見学してみたいと強請(ねだ)っていた甥と、夜、私はTBSラジオまで出かけたのだった。

ラジオ局へ向かうタクシーの車中、「サンタさんに手紙書いたの」と尋ねると、甥は「書いていない」という。
「どうして書かないの、プレゼントいらないいの?」
「だって書いてもプレゼントが届かない年もあるし、書かなくてもプレゼントが届く年もあるしさ」
私は妹の顔を思い浮かべ、苦笑した。

「へー、手紙書かないときにどんなものが届いたりするの」
「え?ああ、枝豆育成キットが届いたことがあるよ」
「え!枝豆育成キット?!」
「しかも、育てる鉢が、育て終わったらビール飲むコップになってるの。ははは」
私は妹の顔を再び思い浮かべた。こういうところからして妹と私は性格が違うのだ。

「・・・そんなの選びそうなひと誰だかわかるじゃん!」
すると甥がひとこと。
「ビール好きのサンタさんが選んだんじゃないの?」

幼かった甥も春には中学生。大人になったなあ。

 

 

34.音楽との出会い

TLTSA34

私のウェブショップでは、古本と作品、旅先で買ったものを販売しているのだけれど、もう少し幅を広げてセコンドハンドもの、私が長らく愛用してきたものも売ってみようかと思っている。たとえば部屋の隅に大量に積み重ねられたCDとか(もちろん、そのCDへの思いも書き添えて)。
いままでは、正直にいうと、中古CD屋で処分していた。だけど、もしも、私のショップで販売することで、それが私の読者にとって音楽との出会いのきっかけになったら、これ以上嬉しいことはないし、それも夢ではないと思うのだ。実際、私自身もそんな風にひとからもらったり、教わったりして音楽の世界を広げてきたのだから。

なんでもこうして身の回りのものを手放してしまうのがいいことなのか、と思うこともある。また、そういうことは音楽通のひとがやるべきことで、音楽通でもない私がCDを売って買ってくれるひとがいるかしら、とも。でも、いま私がやりたいことは、読んでいない本ばかりの部屋にすること、聴いていないCDばかりの部屋にすること、着ていない服ばかりの部屋にすること。ならば、バカボンのパパなら、これでいいのだ!と背中を教えてくれるに違いないし、私自身そこに進みたいという気持ちもはっきりしている。
この頃、なんでも思いついたことはやってみようと思っている。やってダメならやめればいい、大人になるにつれて段々そう思えるようになってきた。

 

 

33.愛の教え

TLTSA33

夏の間観た映画の中で一番気に入ったのは、橋口亮一監督の『ハッシュ!』だった。ゲイのカップルとひとりの女性の物語。あまりに良すぎて4回観た。
ここ何年も、男女の《結婚》をゴールとした恋愛映画には興味もわかない。それは、私の年齢が関係していることかもしれないし、現実に子供を持っていないので家庭というものにリアリティを感じないからかもしれないし、また、人間は人間としてひとを愛することができるのだと私が心のどこかで信じているからかもしれない。それは、つまり、私には男女の恋愛においても性愛のプライオリティを超えるものがたくさんある、ということなのだけれども。
閑話休題。
ノートをめくっていたら、台詞が書きつけられたメモが出てきて、それは『ハッシュ!』に登場するカップルの片割れの義姉の台詞だった。

「まわりはどうでも自分のほんまの好きなひとと一緒にならんとつまらんよ」

ほんとにつまらんよね。
義姉の役は秋野暢子だった。

 

 

32.視野検査

TLTSA32

眼科の検診、いい結果が出なかった。病気が進行していた。
不眠治療の薬も飲んでいるので、テスト時の反応が鈍くなっているのかも、と先生に話すと、
その可能性も考えられるから、来月もう一度検査してみましょう、と言われた。
でも、なんとなく、来月の検診でも結果は同じような気がする。
そして、もしも結果が同じなら、目薬がもう一種類増える。

帰りに文房具店に寄って、オリヴェッティのノートカバーを買った。
少しキズがついていたので5%まけてもらった。

この頃、また痩せてしまって、ブラジャーが緩い。
買い替えるとなると、手痛い出費。この間買ったばかりなのに。

ああ、どこかへ行きたい。
また沖縄でも行こうかな。
海しか見えないようなところへ行きたい。

 

 

31.猫になるとき

TLTSA31

今日は、日中暖かかったのでチューリップの球根を埋めた。25個ぐらい埋めたけど、まだ球根は50個ぐらい残っている。早く埋めてしまわなければ。
それから一株残っていたアネモネのポット苗も植木鉢へ植え替えた。

それにしても、スイートピー、クロッカス、チューリップ、水仙、どんどん芽吹いてしまって、心配だ。
東京の昼は暖かいから、春と勘違いしているのだろうか。
寒さに当たらないと咲かないものもあるし、か細い芽でこれから冬を超えることができるのかも不安だし(特にスイートピー)、毎日鉢を覗きながらやきもきちしてしまう。
自分自身は暖かいほうが、いろいろな洋服が着れて楽しいと思うけれど。

夜、お友達から電話があって、お喋りした。
先週、元気がなくて、何度も電話をかけた相手だったので、やたらとまとわりついていた私を鬱陶しく感じなかった?と尋ねたら、そんなにまとわりついてもいなかったよ、と言われ、ほっとすると同時に、猫がお腹を見せちゃうみたいに、じゃあ、また甘えてまた電話しちゃおう!という気持ちになった。大人だってひとに甘えたいときがあるんです!

 

 

30.アパートの鍵貸します

TLTSA30

母と新宿へ映画『ラストエンペラー』を観に行く。既に観るのは四回目なのだけれど、大きなスクリーンで観るのは初めて。なにしろ紫禁城の迫力がすごい。よく中国がロケに貸し出したと思う。映像美に溺れること3時間。
溥儀に対しては知れば知るほど気の毒なひとという印象が深まっていく。母も同じことを言っていた。
でも、昔、溥儀の人生についてまとめて何冊か本を読んだとき、晩年はもと看護婦か何かをしていた普通の女性と知りあって、人並みの家庭を築いて暖かな暮らしを送ったと書いてあった(良かったね)。

帰りに母の好きな小龍包を食べに行き、ユニクロで私が使っているのと同じ、園芸用にちょうどいいパンツを買ってあげた。その後、私の具合が悪くなり、喫茶店に寄って少し休んでから別れた。母を駅の方向へ見送った後、ルイ・ヴィトンで買うものがあったのを思い出し、ルイ・ヴィトンに戻る。スピーディのバンドリエール。

次の「朝十時の映画祭」は『アパートの鍵貸します』だ。「絶対誘ってね!」と母は言っていたけれど、それこそ絶対母は観ているはず。もちろん私も一度観ている。ジャック・レモンとシャーリー・マクレーン。年末旅に出るのは反対されたけど、母娘でジャック・レモンを観るなんてなんだか洒落た暮れになりそうだ。

 

 

29.サプライズボックス

TLTSA29

今日は、私のウェブサイトのほう(hasebechisai.com)に最近の掲載誌情報を二、三アップした。気づいてくれるひとはいただろうか。まだ使い方に慣れていないひとも多いかな。
もちろん、私だって、情報はSNSで流したほうがいいことぐらい知っている。でも、SNSはやはり性に合わないというか、リプライが早くて弾みがある一方、不要な人にまで情報を押し付けて、ポイッとゴミ箱に捨てられているみたいに感じることも多くて。まあ、拡散効果はなくても、ブログもスタートしたことだし、自分の情報サイトもできたことだし、マイペースでやっていこうと思う。

ところでいま、サプライズボックスを作っていて、内容は、ちょっと大人ガチャにも似ているけど、もう少し豪華。事務所にあった、ノヴェルティ同梱用CDケースに、昔、私が企画制作に携わっていたヴァレンタイン用コンピレーションCDとその他オマケ的諸々が詰まっているもの。当時、CDを買い逃した人はこれが最後のチャンスです。選曲は小西(康陽)さんなので、間違いはありません。で、レーベルデザインは大石裕子&長谷部千彩。ネットショップではこういう大量生産できない手作りのものをのんびり売って行きたい。煙草屋のおばちゃんとか駄菓子屋のおばちゃんのイメージで。そのうちお手玉なんかも作っちゃうかもね。

 

 

28.あめんぼみたいに

TLTSA28

久しぶりに仕事上のトラブルに遭遇。こちらが悪い話ではなく、相手に100%責任があって、しかも相手も非を認めているので、私がイライラハラハラすることもないのだけれど、師走の忙しいときにややこしいことが起こるのは嫌ですね。この時期はあめんぼみたいに何事もすいすいやり過ごしたいのに。

年末はどこかへ行こうかと思っていたけど、結局どこにも行かないことに。母に、別に年末年始じゃなくてもとろうと思えば休みがとれる仕事なのだから、暮れの慌ただしいときに旅行なんてやめなさい、と言われたので。確かに忙しない時期にわざわざ出かけて行って、事故に巻き込まれたりしても良くないし、家でのんびりしているのが一番かもね。
私のまわりには意外とそういう考えのひとが多くて、友人のひとりは、むしろひとのいない東京をブラブラしているほうが楽しい、と言っている。それなら私はホテルのお正月料理でも食べに行こうかな・・・なんて、余裕あるふりしてみたけれど、たぶん年内にこぼれた仕事をひとりでやっているでしょう。是、ほぼ確実。ああ、本音を書くと全然楽しみじゃないお正月!つまらない!

 

 

27.好みの男性

TLTSA27

洗濯物をたたみながら、ジョニー・トー『ザ・ミッション 非情の掟』を観る。オープニングのタイトルバックの筆文字の並びから、「おお、黒澤!」と声を上げてしまう。要するにこれは『七人の侍』へのオマージュなのだと思う。化学調味がかかって香港味になっているけど。そして、アンソニー・ウォン、フランシス・ン、ジャッキー・ロイ、ラム・シュー、ロイ・チョンと、七人じゃなくて五人になっているけど。
それはともかく、やっぱり私のお目当てはロイ・チョン。たぶん『七人の侍』だったら、ロイ・チョンは凄腕の剣客として活躍する久蔵なんだろうなあ。口数少ない射撃の名手として登場するから。そのロイ・チョンが最後の最後に裏切った仲間を殺せないというところに面白さがあるというっていう話なんだけど・・・なんてロイ・チョンがあまりに好み過ぎて(物静かで骨太な感じの人が好きなの)、全然これじゃ物語の説明になっていないですね。ともあれ、キャラクターそれぞれ見せ場があっていい映画でした。
それと面白かったのは、特典映像に劇中使用された拳銃の解説があって、その解説がオタクすぎて、ここでこの役者がこういう行為をするのはガンマニアにとっては謎であるとか、この銃ではあの距離は届くわけがない、みたいな、鑑賞後の感動にバンバン水を差す知識を与えくれるところ。あまり使わない知識だけど、いろいろ知れて良かったナ。