21.退屈しのぎ劇場

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夏の間、薬を飲んで横になっている生活だったので、退屈しのぎにDVDでよく映画を観ていた。
折角なので、普段なら観ないようなものを観るようにしていた。
再見したもの、劇場でみたものも少し交ざっているけれど、ざっと挙げるとこんな作品。

『空中庭園』
『舟を編む』
『真昼ノ星空』
『ゴーン・ガール』
『ドラえもん STAND BY ME』
『ビッグ・アイズ』
『恋人たちの食卓』
『サマー・オブ・サム』
『八日目の蝉』
『25時』
『ミッシング』
『TATTOO「刺青」あり』
『序の舞』
『へルタースケルター』
★『星の王子ニューヨークへ行く』
★『麻雀放浪記』
『それでもぼくはやっていない』
『道頓堀川』
『さくらん』
★『プライベートベンジャミン』
『捨てがたき人々』
『セントアンナの奇跡』
『そして父になる』
★『そこのみにて光輝く』
『ステップフォード・ワイフ』
★『her/世界でひとつの彼女』
『桐島、部活やめるってよ』
『横道世之助』
★『ハッシュ!』
『渚のシンドバッド』
★『KAMIKAZE TAXI』
『はじまりのみち』
★『アウトレイジ』
『アウトレイジ ビヨンド』
『シャニダールの花』
『グッバイ、レーニン!』
『重力ピエロ』
★『レスラー』
『恋人たちの予感』
『怒りの葡萄』
★『モーターサイクルダイアリーズ』
『花様年花』
『新宿スワン』
『白蛇抄』
★『パリ、ただよう花』
★『スライ・ストーン』
『夏の終り』
『けものがれ、俺らの猿と』

★をつけたのは、まあ、観て良かったかな、と思ったもの。感動したとかいい映画だったとか、そこまでの思い入れはありません。
一番笑ったのは『プライベート・ベンジャミン』。ゴールディ・ホーンがルイ・ヴィトンのハンドバッグ持ったまま軍隊に入っちゃうの。ワハハハ。

 

 

20.悪い癖

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切り絵作家Mさんと打ち合わせ。昨夜もS社編集者Sさんとの約束があり、打ち合わせが続いている。明日の予定は建築家のMさんとのミーティング。翌々日は・・・もういいか。

丸一日ひとりで家にいたいという願望がある一方、一日一回ぐらいひとに会って話さなければ不健康だという気持ちもある。病院の先生は何かスポーツを、できなければ散歩を、と促すけれど、散歩はともあれジムに入会する心の余裕がいまの私には全くない。打ち合わせをこなすだけでもうへとへと。仕事も背負子に積まれた薪のよう。加えて、体力が追い付かず、以前のように所用を要領よく片付けられないことに感じるもどかしさ。他に気がかりなのは広東語をお休みしていること。ただでさえ覚えの悪い私なのに、折角覚えたことも、このままではどんどん忘れてしまいそうで怖い。そして学校の勉強も。

なぜだろう、今日は焦っている。緊張しているのか、この頃、早起きの度を超え始めているような気もするし(午前四時半とか)。そんな気持ちをTさんに打ち明けると、「大丈夫、普通のひとでもそういう気持ちに襲われることはあるから」と慰められた。
確かになんでも病気と結びつけてしまうのは悪い癖。マイペースが自分の長所だとするならば、せめてその長所だけでも守っていかなければ。
落ち着いて。落ち着いて。誰も私を急かしてなどいないのだから。

 

 

19.赤いストール

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通院日。朝、仕事に没頭していたら、家を出るのが遅れ、受け付けで待ち時間1時間と言われる。時間をつぶすため、カフェに入り、パン・オ・レザンとコーヒーの朝食をとりながら、G誌連載の原稿の下書き。

診察の結果は良好、薬は変わらず。鉄分の注射を売ってもらう。調子が良いのはいいことだけど、調子に乗って無理しないように、時間をかけて治していく病気だからね、と先生に釘を刺される。年内にMRIを受けておくようにとも。薬の量が増えなかったのは良かった・・・けど、一旦やめていた苦手なサプリメントをまた飲むことに。粒が大きて飲むのつらいんだよ・・・と心の中で泣きごとぽつり。

余談。今日は病院に赤いニットワンピースに刺繍を施した真っ赤なシャコックのウールのストールを巻いていったのだけれど、女医の先生のほうが同じストールを持っているとかで盛り上がった。「還暦過ぎてから赤いもの集めているの!」とお茶目な先生。それにしても、12年程前に、しかもパリで買ったストールを持っているひとにこんなところで会うなんて本当に奇遇!「お洒落な千彩さんが持っているならいいものなのね、ブランドはわからないけど意外と高かったことを覚えているわ」と先生。12年使っても全然傷まないのだから、先生、それは高くないってことですよ、と言いかけたけど、「お洒落な千彩さん」という言葉を真に受けていると思われるのも困るのでとりあえず黙って笑っておいた。

 

 

18.隠密行動

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香港へは最近行っていないの?と訊かれるけれど、ご心配なく、いままで通り行っています。
秋にも一度行ってきたし、たぶんこの冬にも行くと思う。春節にもね。
ただ、そのことを日記に書くかどうかはわからない。
書きたいことがあれば書くし、書くほどのことでもないと思えば書かない、それだけのこと。
そもそも個人の旅行をいちいち報告する義務などないわけだし。
それに香港旅行なんて珍しくもなんともないでしょ。

それと、別な理由もあって、休載中になっている『香港スタイルミルクティー』の担当編集者に、先月会って、連載再開の打ち合わせをしたのです。
だから、いまはアイディアを練っている段階。ここでちゃんと練っておかないと書けないから、旅の感想はあくまで作品になるまで秘密ということにしておきたいのです(そういうこともあってSNSを離れた)。

それから、香港通いも5年目に入り、パリにもあったように、香港にも在港日本人社会があるというのがわかってきて、人間関係に用心しているところもある。しがらみできると、社交性高いひとはいいけど、私のように社交性低いひとにとっては、いいこと絶対にないじゃないですか。
私はいつも旅行者と居住者の間の目線で街を歩きたい。
それが大事とポール・ボウルズもエドワード・サイードもジェームズ・ボールドウィンも言っているし。
吹けば飛ぶような枚数の原稿しか書いていない私が生意気だけど、ものを作るひとは、ひとりでいられないようでは駄目だと思うのです。そして、秘密を作れないようでは駄目だとも。ね。

 

 

17.老人生活

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Tさんとランチに火鍋。しっかりひとり分食べられた。

今年の前半、体調を崩し―って、よく書いているような気がするけれど―、全然食事ができなくなった。動悸はするし、夜中に何度も目を覚ましてしまうし、まっすぐ歩いているつもりが斜めに歩いていたり、家の中でも転んだり。
病院で調べてもらうと、脳の疲れも関係しているという。そこで夏の間、先生の言いつけ通り、薬を飲んでずっと眠っていたわけです。
「頭使うから、大学も休んで、原稿もしばらく書かないでね」と先生はあっさり言い、そこはややがっかりしたのだけれど、それもすべて治療のため!と思い、おとなしくコアラみたいにぐうぐう眠っていたら、段々食事がとれるようになってきて、つ、ついに火鍋!
半年のつらさを思い返すと、ここまで辿り着いただけでも感無量。
原稿も一日800字ぐらいまでと言われているけど、こっそりその倍ぐらい書いているしね(これはホントはダメ)。

いまは完全な朝方で朝6時頃から12時頃まで仕事をして、そこから2時間昼寝、21時ぐらいにはベッドに入っている。もともと日の出ているうちしか書かないタイプだったけど、早朝、いいですね。静かだし。
先生は、まだ完治しているわけじゃないんだから朝10時ぐらいまで寝ていて、と言うけれど、早起き、慣れると楽しいの。
おじいちゃんみたいな生活だけどね!

 

 

16.夜の愉しみ

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師走といえども、忙しいという言葉が飛び交い始めたのは十一月のことだ。この季節になると、たった数日の正月休みのために、なぜこんなにみんなせわしなく働かねばならないのか、と腹立たしく思うけれども、これももはや日本の伝統なのかもしれない。今日も前の予定が押して、香水の発表会に出席できなかった。新しい担当者と挨拶をするいいチャンスだったのに。

最近の数少ない愉しみは、眠る前に映画を観ること、本を読むこと。そうして頭の緊張を緩めてから眠りにつく。特にいまは、瀬戸内晴美の『夏の終り』に夢中だ。この小説の主要な登場たちは、巻末におかれた竹西寛子氏の解説からひくと、「生活者としての内的秩序が、いわゆる良識ある生活とは重なり合わぬ」者たち、と説明されているが、瀬戸内晴美の小説が好きかどうかは別にして、私自身も主人公たちと同じく重なり合わぬ者であるがゆえ、感情移入をあまりしない私にしてはめずらしく心引き寄せられ読んでいる。あと数十ページで読了するが、瀬戸内晴美の他の本も読んでみたい。期待はしていないが、興味がある。

 

 

15.CHICAGO

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ミュージカル『CHICAGO』の初日、ご招待いただいたのでシアターオーブへ。黒いラメ入りのウールのチャイナドレスにGUCCIの今年のバッグ。劇場は多少派手なお洒落をしても浮かないところが好き。
『CHICAGO』は98年のリヴァイバル版の初来日から、かれこれ6、7回は見ているけれど(ロンドンでも観た)、最初の来日キャストが全体としては一番上手かったな気がするのは気のせいだろうか。

今回はロキシー・ハートを、NHKのドラマ『マッサン』のエリー役で有名になったシャルロット・ケイト・フォックスが演じていた。しかし、顔がかわいいのはいいとして(ロキシー・ハートにしては顔が清純すぎると思うのだけれど)、ブロードウェイキャストのヴェルマ役の女性との間に力量の差がありすぎたのが残念だった。表現が貧相というか。ラストでは、ロキシー、ヴェルマに全然ついていけなくて何を踊っているのかすらわからなかったし・・・。
それでも!ミュージカルを初めて観るひとがいるなら、私は『CHICAGO』を薦めます。無条件に楽しいから。フォッシースタイルと言われるボブ・フォッシーの振り付けもかっこいいしね。

ちなみに、それだけの回数観ている『CHICAGO』だけど、小西(康陽)さんやマネージャーのYくんに言わせると、悪徳弁護士のビリー・フリンを河村隆一さんが演じたときが最高だったそう(河村さんが)。私はちょうどその頃、海外で暮らしていたので、その公演は見逃している。もう一度、是非是非河村隆一さん、ビリー・フリン役にカムバックしてください。河村さんのビリー・フリン、観たいです!

 

 

14.女の三択

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TOHOシネマズ新宿で母とともに「 新・午前十時の映画祭」、『宋家の三姉妹』を観る。DVDでも持っているが、大きなスクリーンで観たかったし、母の感想も聞いてみたかったので。

少々説明を加えると、『宋家の三姉妹』は、進歩的な思想を持つ父のもと、清朝末期のブルジョワ家庭に育った姉妹の物語で、長女は後に中国初の銀行をつくる大富豪と、次女は後に辛亥革命を起こし、国父と崇められる孫文と、三女は国共戦争で国民党を率いる蒋介石と結婚する。つまり、中国史を夫たちの傍らで動かし続けた三姉妹の物語なのだ。そして、まさに激動の時代を生きる三姉妹を、ミシェル・ヨー、マギー・チャン、ヴィヴィアン・ウーという中国を代表する美人女優が演じている。同時に、「一人は金と(長女)、一人は権力と(三女)、一人は国家と(次女)結婚した」と言われたように、仲睦まじい三姉妹ながらも個性が少しずつ違っていて、女の生き方についても考えさせられる映画でもある。衣裳はワダエミ。見どころたっぷり。
ちなみに初めて観たときは、夫の思想を未亡人になってからも守ろうとする次女に魅かれたが、マギー・チャン自身が、次女は夫への愛にしばられて(=彼の思想を守ることに人生を捧げてしまったために)自分を生きることができなかったひとだ、と言っているのを聞いて、それもそうだな、といまは思っている。

帰りは母と久しぶりに鼎泰豊でランチ。熱々の小龍包に舌鼓を打ちながら、「三姉妹の誰かになるなら、私は、長女でいいわ、お金と結婚する。夫の思想とは関係ないところで自分の好きに生きたいもん」」と私が言うと、「また、あなたはそんなことを言って」と母に笑われた。実際は、相手が孫文ほどのひとだったら、やっぱり私も次女みたいに生きるのだろうなあ、と頭の隅で考えつつ。

 

 

13.冬の始まり

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仕事の休憩も兼ね、横になって読書を一時間。瀬戸内寂聴の短編小説『夏の終り』。文句なしに面白い。僧侶に対してひどい言い草だが、どうも彼女のルックスに嫌悪感があって、今まで私は彼女の作品に手を伸ばしたことがなかった。でも、いまは、ああ、巧いひとなんだなあ、と思う。年上の男と年下の男から同時に愛し愛されする女性の心も、話のディテールも、よくわかるなあ、と思ったし。

この小説を読んでみようと思ったのは、先に映画を観たからで、映画が消化不良だったため。原作はどうなっているのだろうと思ったのだ。
映画に関して言えば、満嶋ひかりが、綾野剛演じる年下の男と性的関係があるように見えないというのが最大の失敗だと思うけれども。というか、満嶋ひかりが童顔なので、男性ふたりがどちらも年上に見えて、なんだかひどく輪郭のぼやけた作品になっていた(原作では主人公の女性の年齢は30代後半)。

夕方、デザイナーのMさんと単行本の打ち合わせ。終わらぬ仕事はないとはいえ、12月中に予定まで進むのか、と不安少々。

 

 

12.朝日に夢見て

TLTSA12

無事、私の個人サイト《hasebechisai.com》がオープンして、このブログサイトも始まって、今後、SNSとはだいぶ距離ができると思う。
清水の舞台を飛び下りるつもりで初めてみたSNS(私の場合はInstagram)。最初はビクビクしていたけれど、実際やってみたら楽しいこともたくさんあって、お友達ができたり、反響が目に見えたり、朝起きて、自分の写真に、いいね!がたくさんついていると気分が明るくなるって、そんなことがわかったり。
だけど、所詮あれは参加するもの。自分の力で何かを作るというのとは根本的に違うもののような気がした。コメントをもらえるのは嬉しかったけど、書く楽しみ、撮る楽しみ、作る楽しみ、には結局遠く及ばなかった。

・・・というわけでコツコツ生活に舞い戻った私。
いま、ウェブサイト諸々の他に、取り組んでいるのは、とても大きなものがひとつ、それから本を二種類作っている。自分の文章を読み直すのは苦痛だけど、そこは頑張って乗り越えるつもり。というのも、読者の方にもっとも言われる回数が多いのが「本で読みたい」だから。だけど、その言葉に応えようという気持ちが起こったのもSNSを経験したからかもしれない。ネットで活字を読むのが当たりまえの時代の流れの中で、本で読みたいと言ってもらえるのは、物書きとして幸せなこと。紙と印刷とともに自分が存在できるうちはできるだけ長くその場に存在したい。できるだけ、できるだけ長く――。近頃、そんなことを考えている。